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【JAXA×BIZ NEWS】クレハ×JAXA×電通、予想外のイノベーションを生み出した宇宙技術の意外な活用とは。

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JAXA新事業促進部 2020年03月27日 10時22分
発想の転換が可能にした、宇宙と地球のコラボレーション。

2020年2月。株式会社クレハとJAXAが共同で発表したプレスリリースは、両者ともにまったく想像もしていなかった意外な手法によって実現した。それはJAXAが保有する宇宙環境を再現するための実験設備を、地上のための新素材開発に用いるという目から鱗の発想の転換。JAXAにとっては厳しい宇宙環境の再現専用として使っていた地上設備を民間企業のために活用できるというメリットを生み、クレハにとっては宇宙に行かずに、しかも地上の環境では実現困難な新素材の発明につながる最高のメリットになった。

本発明の立役者となったのは原子状酸素という物質だ。国際宇宙ステーション(ISS)や地球観測衛星が飛行する高度数百kmの軌道上に多く存在し、ロケットや人工衛星等に使用しているプラスチック材料と衝突することで表面を削ってしまう宇宙の「悪者」として扱われ続けてきた。この原子状酸素が実は、地上では材料の抗菌活性を発現させる「善人」としての役割を持つことがわかったのだ。原子状酸素を照射したプラスチック表面を電子顕微鏡で観察すると、1µm(1,000分の1mm)程度の凹凸構造が形成される。
 

真空複合環境試験設備(JAXA筑波宇宙センター)
真空複合環境試験設備(JAXA筑波宇宙センター)

そのプラスチックに対し評価試験を実施したところ、複数のサンプルで大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が発現したことを確認できた。この方法では抗菌剤などを添加することなく、材料自体の表面の微細形状を変化させることで抗菌性を付与できるため、安全性の観点からも利用範囲の拡大が期待される。

 

そのプラスチックに対し評価試験を実施したところ、結果、複数のサンプルで大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が発現したことが確認できた。この方法では抗菌剤などを添加することなく、材料自体の表面の微細形状を変化させることで抗菌性を付与できるため、安全性の観点からも利用範囲の拡大が期待される。


※原子状酸素照射による材料の抗菌活性発現の発見について(2020年2月14日報道発表)
http://www.jaxa.jp/press/2020/02/20200214-2_j.html


同じ未来を見つめて、徹底的に語り合った3日間。

この共同研究が生まれたのは、2016年にJAXAと株式会社電通が共催した「未来共創会議」という取り組みがきっかけである。「未来共創会議」とは、電通のファシリテーションのもと、企業とJAXAが実現したい未来像を共有し徹底的にディスカッションすることで、双方の資産を活用した新たなビジネスアイデアを創出するオープンイノベーションの場である。本ビジネスマッチングの中で、クレハとJAXAはワークショップ形式の3日間からなるビジネスアイデア共創を実施。実現したい未来から、ともに本音で語り合い、双方の資産や課題の共有を行い、ビジネスアイデアを次々と生み出していくワークショップの中から生まれたこの斬新なアイデアが形になるまでには、さらにおよそ4年の月日が流れた。
 

阿部俊輔氏 (Kureha America Inc.((株)クレハ米国子会社) Senior Marketing Manager)

※2016年当時:(株)クレハ 新事業創出プロジェクト

(株)クレハ 阿部俊輔氏
(株)クレハ 阿部俊輔氏

このプロジェクトに参加するまで、JAXAさんに対して漠然と「堅い」イメージがあったので、民生用途開発で協業なんて全く想像できませんでした。未来共創会議では3日という短期間ながらも、異なる技術背景・価値観を持ち、ポジティブ思考の塊のようなJAXAメンバーの皆さんと実際に具体的なテーマ立案に向け本音で議論できたことは大変刺激的でした。宇宙技術を地球の日常生活に届けられる、夢のあるアイデアを共創し、その後の共同開発~特許出願というアウトプットに繋げる一連のプロセスに僅かでも関わる事が出来たのは会社人生の中でも貴重な財産です。0→1は完了したとして、この芽をどう育て、料理し、消費者に届けられるレベルにまで仕上げるか。そこはモノづくり企業としての実力の見せどころだと思っています。




後藤亜希氏(JAXA研究開発部門第一研究ユニット 研究開発員)

JAXA 後藤亜希氏
JAXA 後藤亜希氏

未来共創会議は率直な意見やアイデアがぶつかり合う「濃い・熱い」会議で、当時入社2年目の私にとって多くのいい刺激を得られた貴重な時間でした。何としても新事業を立ち上げよう!という意気込みにあふれたクレハさん。アイデア創出のための仕掛けを次々と投入してくださる電通さん。そして日夜宇宙と向き合うJAXAメンバー。この三者の議論で出たアイデアを基に共同研究を開始し検討を進め、プレスリリースという形で世に発信できたことについて、大変嬉しく感じています。本共創事業からの学びは、「異なる強みを持つ者が事業アイデア共創を試みると、従来事業の延長線にない新しい事業アイデアを効果的に生み出せる(可能性がある)こと」や「発想の転換により、宇宙の “弱み”(=原子状酸素による材料の浸食劣化)が “強み”(=材料表面への機能付与)にも変わり得ること」と考えています。今回の経験を活かし、宇宙業界に閉じずにアンテナを張り、新たな価値を生み出すべく精進したいと思います。
 

澁江俊一氏 ((株)電通 電通ビジネスデザインスクエア コピーライター/クリエーティブディレクター)

(株)電通 澁江俊一氏
(株)電通 澁江俊一氏

宇宙という日々の生活からあまりに遠い、でも夢も希望に満ちた世界をどうやってビジネスの世界とつなげるか、それが大きな課題であり、超えがいのあるハードルでした。ほとんどの企業は宇宙と聞くと自分たちの業務とはまったく関係がない領域と感じていました。そこで私たちはまずJAXAが持つたくさんの強みを一覧できるよう可視化しました。衛星をつくる技術、宇宙空間での医学や栄養学、数多くの人や技術が関わるプロジェクトを成功させるプロマネ力…。その一つひとつを機能や素材やスキルなどの要素に分解していくと、宇宙に輝く無数の星のようにあらゆる企業が興味を持てる入口ができました。それがクレハの「まだ地上にない素材をつくりたい」という強い意志と何度もぶつかり合った果てに、宇宙空間を再現する実験設備というJAXAにしかない他に使い道のなかった資産を、新素材開発という想定外の目的のために使うアイデアにたどり着いたのです。あの日の議論から具体的な成果が生まれたことは、私にとってもこの上ない喜びです。

 
宇宙だけでも、地球だけでもできなかったこの新素材。異なるバックグランド、異なる知見やスキルを持った異業種のメンバーが、同じ人間として同じ理想の未来を見つめて深くディスカッションしたからこそ生まれた、この画期的なイノベーションが未来に貢献する日を楽しみに待ちたい。JAXAはこれからも、これまでに培ってきた宇宙分野での知見・ノウハウを広く社会に還元するとともに、先端技術(5G、AI、IoT、ビッグデータなど)を見据えつつ、異業種との共創を進め、宇宙利用拡大や産業振興の取り組みにおけるアウトカムの創出を目指していきます。

※未来共創会議:
JAXAと電通がタッグを組み、ここに各種の多様な企業を個別に組み込んだ三角形でイノベーションを生み出していく新しいビジネス創造プロセス。3者で共に目指す理想の未来やそれぞれが持つ技術やノウハウを、じっくりと語り合っていく。JAXAは新事業促進部(部長・松浦直人(当時))、電通は当時ビジネス・クリエーション・センター未来創造室(室長・国見昭仁ECD(当時))により2016年から運営スタート。
https://aerospacebiz.jaxa.jp/wp-content/uploads/2016/05/160623_03.pdf

【JAXAウエブ】未来共創セミナーレポート https://aerospacebiz.jaxa.jp/topics/event/160623/
【ウエブ電通報】JAXAの持つ資産を企業の課題解決に生かす https://dentsu-ho.com/articles/4223
【ForbesJAPAN】JAXAx電通、宇宙技術を繋ぐ未来共創会議 https://forbesjapan.com/articles/detail/12527

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